アメリカでは毎年2月が「黒人歴史月間(Black History Month)」に指定されています。昨年巻き起こったBlack Lives Matterのムーブメントやバイデン新大統領の就任により、人種的マイノリティの主義主張に再びスポットライトが当たるようになり、今年の黒人歴史月間は例年よりもさまざまなところで積極的な活動が起こっているようです。
「Black History Month」とは?
Black History Monthは米国連邦政府が指定する記念月間のひとつで、アフリカ系アメリカ人たちがアメリカの発展に多大な貢献を果たしてきたことに敬意を示すものです。その起源は1926年に遡り、奴隷として生まれてきた両親を持つハーバード大学の学者、カーター・G・ウッドソン博士が「ニグロ(黒人)歴史週間」を設立したことが始まりと言われています。この歴史週間が2月になった理由としては、奴隷制を禁止したアメリカ合衆国憲法修正第13条によって奴隷解放宣言を行なったエイブラハム・リンカーン大統領と元奴隷であり奴隷制度廃止運動家のフレデリック・ダグラスの誕生日が2月ということで、当初は2月第2週目の一週間、アフリカ系アメリカ人の功績を讃えてお祝いをしていました。それが1960年代に入り公民権運動が活発化し、多くの州で人種差別解消への動きが裁判の勝利といったかたちで現れるようになると、1976年、ジェラルド・R・フォード大統領がその存在を確固たるものに、ということで、2月の一ヶ月間を公式に黒人歴史月間に制定しました。
黒人歴史月間の目的としては下記の通りです。
- 歴史的に見てアメリカの発展に大いに貢献してきたアフリカ系アメリカ人の努力に感謝する
- 芸術、文化、スポーツ、教育、政治などの分野において活躍するアフリカ系アメリカ人の功績を讃える
- 人種的弊害をなくす
現在でもアフリカ系アメリカ人の功績を讃える運動は続いており、毎年2月になると地方自治体、教育期間などを中心に公民権運動をテーマに講演会などさまざまなイベントが行われています。黒人歴史月間は現代の社会的潮流と相まって拡大を続けています。
企業も明確にする人種差別への立ち位置
長きにわたり、大企業になればなるほど政治的な立ち位置や人種差別への対応を明言しないという風潮がありました。ミレニアル世代やジェネレーションZなど、アメリカにおいて人口的にボリュームゾーンとなる若い層の人々は社会問題に対する企業の立ち位置に厳しい目を向けています。とりわけトランプ政権時代はトランプ支持を表明する企業の不買運動を起こすなど、消費を通じて自分たちの主義主張をする“消費アクティビズム”が起こったこともあり、近年では企業が社会的な問題への立場を明言する風潮が加速してきました。そこにはもちろん人種差別、性差別、政治的な立場や環境問題への対応など、さまざまな課題が含まれています。
こうした立場を明言することは著名人にも求められています。最近では「沈黙は悪」「沈黙は賛同」と言われる傾向にありますが、発言をしたことで炎上することもしばしば。特に黒人歴史月間の2月は人種的マイノリティへの発言にはセンシティブです。2月半ばには2002年から人気リアリティ番組「バチェラー」のホストを務めているクリス・ハリソンが人種差別を容認したとみられる発言をしたことでホスト役を退いています。
2021年のバチェラーはMatt James。黒人でバチェラーに選ばれたのは番組始まって以来彼が初めて。Photo by abc
Black-Owned Businessのサポートが活発化
2020年5月に起こったジョージ・フロイド氏の死から勃発したBlack Lives Matter以降、多くの企業が黒人がオーナーを務めるブランド “Black-Owned” のサポートを表明しました。国勢調査局の調べによると2020年の時点でアメリカには約250万のBlack-Ownedブランドが存在しています。その多くは個人事業主の小規模ビジネスが多く、“buy black”のように黒人オーナーのブランドをサポートする風潮が社会的に起こっています。
Black-Ownedビジネスをサポートする企業の取り組みには以下のようなものが挙げられます。
・売り場の確保
リアーナの「Fenty Beauty」やパット・マクグラスの「Pat McGrath Lab」を展開する化粧品大手のSephoraはイチ早くBlack-Ownedブランドへ15%の売り場を提供すると公言しました。現在では大手スーパーマーケットのターゲットなども15%の売り場を提供しています。
・限定商品の販売
「ナイキ」は2005年からブラックコミュニティへのサポートをスタート。今では2月の黒人歴史月間になると多くのブランドが限定商品を企画販売し、Black-Ownedブランドへのサポートを行なっています。「ニューバランス」はボストンにある本社の黒人社員チームが企画・デザインを行なったシューズを2型発売。教会で行われるゴスペルの衣装から着想したモデルなど、ユニークな色使いが特徴的。「アンダーアーマー」でも黒人写真家のDevin Allenが撮影した写真をプリントしたTシャツパーカーを販売している。「Apple」ではApple Musicのセレクトで黒人アーティストにフォーカスした選曲を行ない、アーティストをバックアップ。「GAP」は限定品の売り上げ$200,000(約2000万円)を黒人支援の非営利団体15 percent pledgeに寄付することを発表しています。
黒人歴史月間を記念して発売されたニューバランスの新作シューズ。
多岐にわたるブラックビジネス
前述したようにアメリカには約250万のBlack-Ownedブランドがあるわけで、多岐にわたるビジネスが存在します。その中でも黒人オーナーならではのブランドの個性が現れているカテゴリーのビジネスをピックアップします。
Beauty
人種によってスキントーンが異なるため、黒人オーナーのスキンケア&ビューティーブランドは黒人の肌質を十分に理解して商品開発をされています。ファンデーションなどのベースメークもさまざまな人種をカバーするためにカラーバリエーションも豊富。メイクアップも黒人の肌に映える鮮やかな色味も特徴的です。リアーナの「Fenty Beauty」の人気は高く、Fenty Beautyでは最近スキンケアラインもローンチしました。ナチュラル成分で自然なカールを引き出す「adwoa」など、ヘアケアも黒人オーナーのブランドだからこそ、黒人特有のカーリーな髪質を深く理解しているためカーリーヘアーに最適な商品を多く販売しています。これらのBlack-OwnedブランドはSephoraのウェブサイトを通じて日本からの購入も可能です。
昨年デビューしたリアーナのブランド「Fenty Skin」。Photo by Fenty Skin
Fashion
多くのBlack-Ownedブランドがアパレルブランドをローンチしています。ビヨンセの「Ivy Park」はアディダスとのコラボコレクションを発表するなど、世界中で知名度があるブランドです。新進気鋭のブルックリン発「Par Bronte Laurent」はコレクションの一部で“HONOR BLACK WOMEN.”というメッセージTシャツを発表するなど、商品を通じてブラックコミュニティをサポートする意を表明しています。
Par Bronte LaurentのメッセージTシャツからは力強さが伝わってきます。Photo by Par Bronte Laurent
Restaurant
それぞれの国や民族、人種によってそれぞれの食文化が存在します。レストラン業界でもアフリカ系の食文化を継承するBlack-Ownedのお店が多く存在します。特に人種の入り混じるヨーク、とりわけブロンクスやクイーンズ、ブルックリン地区ではさまざまなルーツをもつ個人経営のレストランも多く見受けられます。ジャマイカ料理、カリビアン料理、西アフリカ料理、ナイジェリア料理、セネガル料理など、その顔ぶれは多彩です。レストラン検索アプリEat Okraのアプリでは黒人オーナーのレストランが検索できます。
Book Store
黒人の歴史をはじめ、それぞれの民族の歴史の本を大型書店で手に入れることはいささか困難です。Black-Ownedの書店では言うまでもなく大手資本の入った本屋では手に入らない黒人の歴史の本やマイノリティ向けの本が手に入ります。「The Lit.Bar」はブロンクスのかつてBarnes & Noblesがあった場所に唯一ある書店です。ハーレムの北に位置するワシントンハイツの「Sister’s Uptown Bookstore」は母娘で20年も前から営む黒人オーナーの本屋です。ニューヨークではこうした移民が多く住むエリアをはじめ、全米でもアトランタやオクラホマ、ボストン、ロサンゼルスなど多くの都市にBlack-Ownedの書店が存在します。
ブロンクスにある本屋、The Lit. BarのオーナーのNoëlle Santos。Photo by The Lit. Bar
多様な人種が暮らすアメリカで、今後も多くのマイノリティたちのビジネスが受け入れられ、成功していくことが望まれています。