2011年にアメリカの小売業協会や大手百貨店CEOが利用したことから広く一般に認知されるようになった「オムニチャネル」は、顧客視点で複数のチャネルを活用することで顧客へとアプローチするマーケティング手法で、ますます認知度が高まっています。
この記事では改めてオムニチャネルとは何か、その戦略や成功の鍵についてお伝えします。
目次
- オムニチャネルとは?
- オムニチャネルを活用したマーケティング
- オムニチャネルのメリット
- オムニチャネルのデメリット
- オムニチャネルの成功事例
- オムニチャネル化するうえでの課題
- OMOとオムニチャネルの違い
- クロスチャネルとオムニチャネルの違い
- まとめ
- オムニチャネルについてよくある質問
オムニチャネルとは?
オムニチャネル小売の円輪は、Amazonから実店舗、メール、Facebookまで、あなたがいたるところに登場することを意味します。
オムニチャネル(OmniChannel)とは、実店舗、ECサイト、SNS、アプリ、カタログなどの顧客と企業を結ぶあらゆる経路(チャネル)で一貫した購買体験を提供し、顧客満足度を高めて購買へとつなげるマーケティング手法です。
「オムニ」はラテン語を語源としていて、「すべての」「あらゆる」という意味をもっています。「集客のための経路」を意味する「チャネル」と組み合わせて、店舗やECサイト、SNSなどリアルとネットを問わずあらゆる流通ルートを駆使してアプローチすることを意味します。顧客の購買プロセスのさまざまな段階で、各チャネルを最適に組み合わせてアプローチする、顧客起点の戦略として活用されています。
オムニチャネルはSNSの浸透やスマートフォンの普及によって活用の幅が広がり、マーケティングに欠かせないものになってきています。
似た言葉に「マルチチャネル」があります。こちらも複数のチャネルを駆使して顧客へアプローチする手法ですが、オムニチャネルとは異なり、それぞれのチャネルは連携しておらず、独立して機能しています。
オムニチャネルを活用したマーケティング
オムニチャネルの定義はわかったけれど、実際にはどのようにチャネルを組み合わせてアプローチしていくのか、イメージできないという人もいるかもしれません。
ここで、全天候型バッグとテクニカルアパレルのリーダーであるMission Workshopを例に、各チャネルを利用してどのようにオムニチャネルのマーケティングが行われるのかの事例を、順を追って見てみましょう。
Mission Workshopによるオムニチャネルの事例
1.ブランドホームページを訪れた顧客が、高機能ダッフルバッグのThe Cadre 26を見ましたが、価格を見ただけで、バッグの耐久性や生涯保証という特徴は見ないままサイトを離れました。(ブランドHP)
Mission Workshopによる画像
2.その後、スマートフォンでインスタグラムを見ているとき、ブランドのライフスタイルに焦点を当てた広告画像が表示されます。顧客は広告を見ただけでしたが、ブランドと商品についての詳しい情報が顧客に伝わりました。この広告の目的は情報によるカスタマー教育で、顧客に購入を要求することではありません。(インスタグラム)
3.別のタイミングで顧客がフェイスブックを利用した際、バッグの動画が表示されました。(フェイスブック)
4.さらに、顧客がYouTubeでバッグのレビューを見ているときに、商品レビューの広告が流れました。(YouTube)
5.バッグだけでなく、フェイスブックのコレクション広告(メイン画像の下に他の製品を表示できる広告)を使ってほかの商品にも注目してもらいます。(フェイスブック)
6.今度はウェブを見ているときに、フェイスブックで見たものと同じ商品を取り上げた広告を目にします。これにより、チャネルに一貫性がうまれ、顧客はブランドからのオファーに慣れていきます。(インターネット広告)
7.フェイスブックを利用したときには、フェイスブック広告を通じて、近くの取扱店を訪問するよう促されたり、スタイリストによる無料相談のオファーが提示されたりします。(フェイスブック)
8.スタイリストとの相談を経て、顧客は購入に至ります。(実店舗)
9.スタイリストはフォローアップメールを送り、顧客をMission Workshopのイベントに招待します。(メール)
10.イベントに参加するためには、アカウントを作成して登録する必要があります。登録すると顧客の情報は今後のマーケティングに活かされるようになります。(会員登録)
このように期間をかけて各チャネルから統一性のあるアプローチをすることで、Mission Workshopは顧客のコンバージョンやエンゲージメントを得ることができました。
事例からわかるように、オムニチャネルは各チャネルが独立したアプローチを行うのではなく、統一感をもって連携したアプローチを行うのが特徴です。顧客にメッセージを適切に伝えることができると同時に、顧客はチャネルの選択肢を知ることができ、購入や検討をするのに自分に合ったチャネルを選びとることができます。
オムニチャネルのメリット
オムニチャネル化を進めるメリットはいくつかあります。
機会損失が減る
実店舗に行く時間や手段がない顧客でもネットショップを利用できる、SNSで気になった商品を実店舗で確かめてから購入できるなど、オムニチャネル化することで顧客は好きなチャネルから自分のタイミングで商品を購入できるようになります。そうすることで、顧客の購買意欲が下がりにくくなり、販売の機会損失を減らすことができます。
顧客のデータ管理や分析がしやすくなる
オムニチャネル化すると、顧客のデータが一元化されるため、管理や分析がしやすくなります。購入履歴や利用チャネルなどを把握することで、購買傾向や行動パターンも分析しやすくなり、顧客にあったマーケティングも可能になります。
業務の効率化
顧客データが一元管理できることで、在庫管理や受発注業務なども効率的に進めることができます。業務が効率化されることでコスト削減にもつながります。
顧客満足度があがる
オムニチャネルの特徴であるチャネル間のシームレスなつながりは顧客満足度も高めます。ライフスタイルに合ったチャネルで購入できたり、在庫がない場合に他のチャネルへ誘導してもらえたり、購入時の顧客目線の便利さはダイレクトに顧客満足度を高めます。
ほかにも、さまざまなチャネルで統一感のある情報提供が行われることで商品やサービスがわかりやすくなり、ブランドの世界観や魅力をしっかりと理解することができるため、ファンやリピーターにもなりやすくなります。
オムニチャネルのデメリット
オムニチャネルには良い点が多くありますが、デメリットもあります。
即効性がない
オムニチャネルが効果を発揮するためには、各チャネルの認知度が上がる必要があります。顧客に認知され利用してもらうことで各チャネルの連携が効果を発揮するので、そこまで到達する時間やコストも検討しなくてはなりません。
ECサイトやオンラインのチャネルは競合が多く認知されるまでに時間がかかるため、実店舗の顧客から認知度を拡大させていく工夫をすると良いかもしれません。
実店舗の売り上げが下がる可能性がある
オムニチャネルの導入によって、実店舗の顧客がオンラインに流れる可能性があります。その場合は人員を検討しなおすことでコスト配分のバランスを取るなど、マイナス効果にならないよう対策しなければなりません。
しかし、オムニチャネルの効果を得るためにはマイナスを防ぐだけの消極的な対策だけではなく、各チャネルの強みを活かしたマーケティング、実店舗へ誘導するイベントの計画や、SNSと連携したキャンペーンなど、積極的な働きかけが必要です。
オムニチャネルの成功事例
オムニチャネル戦略では、顧客を一つのチャネルから別のチャネルへと促します。こういった戦略は強制的でも不自然でもなく、顧客は自然に別のチャネルへ誘導されます。
このオムニチャネル戦略を導入し成功している事例をみてみましょう。
無印良品
無印良品は株式会社良品計画が運営する小売店です。実店舗とオンラインショップに加え、オムニチャネル専用アプリとして「MUJI passport」というスマートフォンアプリを展開しています。
アプリにはニュース配信や在庫検索、店舗検索、マイレージ型のポイントプログラムなど多くの機能があり、オムニチャネルとして注目されています。
買い物時にレジでスキャンするだけでマイルと呼ばれるポイントをためることができるので、多くのアプリユーザーを実店舗へと誘導するのに成功しています。他にも、店舗の特定の範囲内でアプリを操作するとマイルがたまる「チェックイン」機能など、アプリから実店舗へと自然に誘導される仕掛けになっています。
Pura Vida Bracelets
Pura Vida Bracelets(プーラビーダブレスレット)はインスタグラムフォロワー数が220万人にもおよぶデジタルネイティブ世代向けのアクセサリーブランドで、ターゲット顧客に合わせたオムニチャネル戦略をとっています。
デジタルネイティブであるターゲット顧客はブランドのフェイスブックやインスタグラムを頻繁にのぞきます。そこでハイクオリティな商品写真やイメージ写真を目にして、興味をもったらリンクからブランドのHPを訪問する、という一連の流れが自然に発生するようになっています。
さらに、購買意欲のある顧客がディスカウントオファーを求めてメーリングリストに登録したり、対面型のイベントに参加したりすることで、新たな販促チャネルが加わります。
また、希望する顧客に無料の商品やイベントへの招待、報酬を提供してブランドアンバサダーとして活動してもらうことで、SNSなどのチャネル内にさらに新たなルートがうまれています。デジタルネイティブ世代の行動に合わせたオムニチャネル戦略の成功例です。
どちらの成功事例も、チャネルありきではなく顧客を中心にしていることがわかります。ターゲット顧客の全体像や行動を理解し、顧客目線でのチャネル活用が成功の鍵と言えるでしょう。
オムニチャネル化するうえでの課題
デメリットでもあげたように、実店舗の縮小や見直しを迫られる可能性があるのがオムニチャネルの課題としてあげられます。実店舗の魅力は顧客に直接商品やサービスを体験してもらえることです。この最大の魅力を活用しない手はありません。
成功例であげた無印良品のように実店舗へ誘導する仕組みを作ったり、実店舗で写真を撮ってSNSへアップすることでクーポンがもらえたりするなど、ネットとリアルを掛け合わせる工夫が必要です。
そうすることで、ネットショップに流れてしまう顧客を実店舗にもつなげて、商品の魅力を手に取って確かめてもらい、優れた接客やサービスを体感してもらうことができます。
そこにネットがつながることで、世界観を共有してより深くブランドを理解してもらい、魅力を拡散してもらうことにもつながり、両者の相乗効果が発揮されるでしょう。
また、オムニチャネルが完成するだけでは成功に結びつきません。オムニチャネルはあくまでも手段、戦略であり、販売する商品やサービスの魅力がもっとも重要な要素となります。
とくに、近年オムニチャネル化がすすみ商品や店舗へアクセスしやすくなった顧客は、自分の欲しい商品があるお店や魅力的なお店へ流れやすくなっています。チャネルの整備と並行して、商品やサービス、店舗づくりにも注力しなければなりません。
OMOとオムニチャネルの違い
OMOとオムニチャネルの違いは、オムニチャネルが顧客が商品やサービスを検索したりする過程にも関わり、その利便性を高めることでエンゲージメントにつなげる意図があるのに対し、OMOはオムニチャネルからさらに一歩踏み込んで、効率的な消費行動を可能にすることで顧客満足度を高めるマーケティング手法である点にあります。
OMO(Online Merges with Offlineの略)とは、オンラインとオフラインを併合するシステムです。実店舗での買い物や食事、タクシーなどでの移動、レジャーなどオフラインでの消費活動がオンラインでデータ化され、個人IDに紐づけされます。
例えば、メガネを販売しているZoff(ゾフ)は、オンラインストアと実店舗の連携を強化するため、実店舗で計測された視力などのデータを会員情報に紐づけし、実店舗で計測した度数情報をもとにオンラインストアでメガネを購入できるようになっています。
クロスチャネルとオムニチャネルの違い
クロスチャネルとオムニチャネルの違いは、クロスチャネルが実店舗やECサイトなどの複数チャネルを連携させ、情報を一元化することで最適な販売を展開するのに対し、オムニチャネルはあらゆるチャネルを一元的に管理し、シームレスで統一感のあるサービスを顧客に提供するという点です。
オムニチャネルはクロスチャネルをさらに発展させた形であり、顧客が商品やサービスを購入する前段階でも顧客の利便性を高めることができます。
まとめ
デジタルネイティブ世代が購買層のメインとなる時代がきています。実店舗だけ、ネットショップだけ、などのシングルチャネルに基づく小売・マーケティング・商品化戦略は、そのうち時代遅れになるでしょう。
オムニチャネル化はすぐに効果を発揮できるものではありません。しかし、顧客の行動が大きく変化しているいま、これまでと同じやり方では事業の大きな成長は見込めません。
これからは、オムニチャネル戦略で顧客を中心にしたマーケティングを行うのがビジネス成長の鍵となります。さまざまなチャネルをシームレスにつないで商品やサービスの魅力を伝え、顧客のエンゲージメントやコンバージョンを獲得できるよう、いまからオムニチャネル化を進めておきましょう。
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オムニチャネルについてよくある質問
シングルチャネルとは?
シングルチャネルとは、顧客と企業の接点がひとつしかない状態です。実店舗だけ、あるいはネットショップだけ、といった形態をシングルチャネルと言います。
オムニチャネルとO2Oの違いは?
オムニチャネルとO2O(Online to Offline)の違いは、O2Oが顧客をオンラインからオフラインの店舗へと誘導することが目的であるのに対し、オムニチャネルは主に既存顧客のエンゲージメントを高めることで最終的に購買へとつなげることを目的とする点にあります。