パリ出身のデザイナー、ソフィ・メシャリーが立ち上げたポール & ジョー (ポールアンドジョー)は人生を徹底的に楽しむパリジェンヌのライフスタイルを提案するブランドです。ファッションと連動したデザインやレトロモダンな世界観が人気で現在さまざまジャンルの商品を展開しています。
化粧品のポール & ジョー ボーテ (ポールアンドジョー ボーテ)を手掛けているのが国内化粧品メーカーのアルビオン。多くの熱狂的なファンを持つポール & ジョー ボーテのECサイトはどのようにして運営されているのでしょうか。販売推進部榊原さんと、藤崎さんに、お話をうかがいました。
ブランドの世界観を表現するためのラインナップ
見ているだけでも楽しい、持っているだけでもなんだか心がわくわくして幸福感に包まれる、使っても楽しく、かつ機能的。その人の存在感が前に出るような内面からの輝きとオーラを放つ艶めく肌に仕立てるプロダクト。多彩な魅力を持つコスメブランド、ポール & ジョー ボーテの商品はアルビオンの正規販売店で販売されています。
しかし、店舗数はトータルで70店。全国の主要都市では販売されているとはいえ、ファンの数を考えると決して多いとはいえません。近くにお店がない方にもポール & ジョーの化粧品に触れてもらいたい。もっと身近に感じてもらいたい。コスメと雑貨を一緒に楽しんでもらいたい。そんな思いからアルビオンは2021年8月にECサイトをオープンしました。
アルビオンが展開しているブランドのECサイトとしては、アナスイ、インフィオレなどについで4番目。
ライセンスブランドについては、お客様の志向や好み、トレンドをつかむことが欠かせません。それにはやはりオンラインというチャネルが有効だと考えました。ブランドの特性を見ながらオンラインをうまく活用していくというのがブランドの方針です
ラインナップを見てみましょう。販売されているのは化粧品ばかりではありません。ステーショナリー、バッグ、アクセサリー、ハンカチーフ、ルームウェア、ヘアケアグッズ...。ポール & ジョーのキュートなライセンス商品が勢揃いしています。正規販売店で扱っているのは化粧品だけなのに、なぜECサイトでは他のジャンルの商品も幅広くカバーしているのでしょう。その理由を榊原さんはこう語ります。
「ブランドの世界観を訴求するためです。私たちの化粧品だけではなくポール & ジョーのすべての商品でデザイナー、ソフィのブランド観を多くの方に見て感じていただくためです。」
ブランドのシンボルモチーフである「クリザンテーム(西洋菊の一種)」が踊るECサイトは躍動感と幸福感に満ち、まさにポール & ジョーの世界そのまま。幅広いラインナップを見るだけで心が弾むという方も多いのではないでしょうか。ポール & ジョーの世界を構成するさまざまな商品がワンストップで手に入るECサイトはファンにはこたえられないチャネルです。
しかし、多くのメーカーでも、そうであるように、ポール & ジョー ボーテの場合もECサイト開設にあたっては、正規販売店や正規販売店を管轄する社内の部署から反対の声があがりました。接客がないまま化粧品を売ることへの抵抗、実店舗の売上が低下することへの懸念、顧客が離れてしまうのではないかという不安。いくつもの要素が重なって、ECサイトの立ち上げには躊躇をしました。
榊原さんは言います。
「こうした声が届くのはある意味、当然です。両手をあげて賛成されるとは思っていませんでした。ただ、私たちはオンラインのビジネスをブランディングの一つととらえています。ECサイトを通してブランドの魅力を強力に発信し、実店舗に還元させることが私たちの目標です。最終的にはこうした考えをご理解いただき、スタートを切ることができました」
オプション機能、アプリ機能が豊富なShopify
晴れてECサイトにゴーサインが出た後、同社では約1年弱の時間をかけてECサイトを構築しました。プラットフォームとして選んだのはShopifyです。榊原さんは言います。
「私たちが最初に起ち上げたECサイトはアナスイでしたが、当初は国内のカートを検討した結果、フルスクラッチで作ろうと考えてすでに動き始めていました。ところが、NYのアナスイ社から自分たちが使っているShopifyをプッシュされたんです。最初は拒否していましたが(笑)、急きょ方針を展開してShopifyに切り替えました。当時は日本ではShopifyの認知は低く不安がありましたが、StoreHero社との出会いでその不安は払拭されました。その後、別ブランドもShopifyで作ったので、使い慣れていることもShopifyを選んだ理由の一つです。でも、それだけではありません。ポール & ジョー ボーテのサイトを作る前に、他社の機能も進化しているかもしれないと思って、どんな機能が必要なのか、何をやりたいのかをリストアップした上でもう一度、比較検討をしてみたんです。すると、やはりShopifyが優れていました」
使いやすさに加えて、榊原さんが高く評価するのはオプション機能の豊富さです。
例えば、5000円以上お買い上げいただいたお客様に何か特典をつけるとします。Shopifyの場合、この追加機能が非常に簡単なんですね。スピーディにできて、コストもあまりかからない。これは助かります。また、Shopifyのパートナー企業であるStoreHeroさんとの出会いも大きかった。しっかりサポートしていただいたので安心して作業を進めることができました
ECサイトの担当者に指名され、現在、運営を一手に担っているのが藤崎さんです。かつて美容部員として働き、豊富な接客経験と美容知識を備えている藤崎さんは、イラストレーターやフォトショップといったソフトを使いこなすスキルを持っていました。しかし、ECサイトを作るのは初めて。藤崎さんは、榊原さんが作成したShopify社内用マニュアルを読み込んで、ECサイト開設に向けて準備を始めました。
「それこそ、1から学んでいった形です。デザイン的にはもともとポール & ジョー ボーテのブランドサイトがあったので、そのデザインを踏襲する形でポール & ジョーの世界観を訴求しようと心がけました。ポール & ジョーには個性的な商品が多いので、一つひとつの魅力をちゃんと見せたいとも考えました」
ECサイトを構築する際に、もっとも大変だったのが写真選びだったとか。藤崎さんの手元にはカタログで使う写真しかなかったからです。
「素材選びに四苦八苦しましたね。カタログに載せる写真と、ECサイトに適切な写真は必ずしも同じではありません。ECサイトでは、商品を左右、上下、さまざまな角度から撮った写真を揃えた方が効果的です。今後は動画も含めて、ECサイトを前提にした素材を充実させたいと思いますが、オープン時にはそうした写真がなかったので、各商品ごとに最適なサイズを見つけて工夫しながら画像をアップしました」
藤崎さんがShopifyの利点として挙げるのが機能的なアプリです。StoreHeroからの推薦を受けていくつものアプリを使用しています。
Matrixifyは商品情報を追加したり、配送完了メールを一気に送信するときに重宝しています。GemPagesも便利ですね。こちらは、ランディングページを作るときに毎回、利用しています。まだ使っていませんが、ギフトにのしを設定できるアプリもありますし、探せばやりたいことができるアプリが必ず見つかりそうです
顧客軸へのデータ化を可能にするアプリの登場を期待したいと話すのは榊原さんです。
「この時間に何が何個売れたのかという商品軸でのデータ分析は簡単に行なえますが、現状、顧客ごとのデータについてはいったん取り出してから加工せざるを得ません。このプロセスが簡単にできるアプリができたらぜひ使いたいですね」
大好評のオンライン限定キット
ポール & ジョー ボーテのECサイトの目玉ともいえるのが、雑貨と化粧品を組み合わせた限定キットです。お揃い柄のプリントのノート、ハンカチ、リップケースなどで身の回りを彩ることができるのはポール & ジョーの魅力の一つ。ECサイトでは、そうしたファンの期待に応える限定キットを次々と開発し、送り出しています。
「雑貨と化粧品とではそれぞれ写真のサイズが違いますし、できるだけ実物サイズに見えるように苦心を重ねましたが、最初に発売したオープン記念の限定キットはあっという間に完売しました。最初は準備数が少なかったこともありますが(笑)。発売したその日の午前中に売り切れたという限定キットもありますよ。限定キットに関する情報はSNSや公式アプリ、メルマガで発信をしていますが、お客様はみな熱心に情報をキャッチして、ECサイトを訪れていただいているようです」
11月にはネイルやリップ、下地にハンカチなどを組み合わせた「クリスマス・スペシャルキット第一弾」が発売されました。予約開始早々に完売したそうです。
今後は、目標である「実店舗への還元」を図っていく計画です。榊原さんは言います。
「ECサイトの利便性を上げていくことはブランドには必ずプラスになると考えていますが、オンラインでは実現できないこともたくさんあります。例えば、人気商品のプライマーは色よりもテクスチャーが最大の特性です。それを体験してもらうには実店舗に足を運んでもらうのが一番。まずはオンラインで興味を持っていただき、それから実店舗を利用していただく。そうした流れを実現させていきたいと考えています。店舗でしかできないことをオンラインで伝え、店舗に行くとこんなに楽しいことがあるという情報を提供することで、実店舗を強力にサポートしていきたいですね」
ECサイトがブランドに対する興味や関心を高め、実店舗への送客を実現し、実店舗を利用した顧客がまたECサイトを訪問する。そんな良い循環が生まれれば、全体のブランド力は間違いなく高まるはずです。化粧品のECサイトと実店舗は対立する存在ではなく、互いの強みを発揮し、弱みを補完する存在になりえることをポール & ジョー ボーテ は体現しようとしています。