ワーキングユニットは、香港に本社があるディストリビューターの日本法人。現在はWEXLEY(ウェクスレイ)やTopologie(トポロジー)といったスタイリッシュで機能的なバッグブランドを中心にビジネスを展開しています。卸以外のチャネルとして3年前からはECもスタート。Shopifyと楽天との提携を機に、今年3月からは楽天にもショップを構えました。はたして楽天効果やいかに。同社にとって楽天チャネルはどのような意味を持つのでしょう。オンラインマーケティング&セールス担当の吉田翔太朗さんにお聞きしました。
■ Shopifyなら外部サービスとの連携も多い
現代の都市生活者に必要な機能を備えたベルギー生まれのバッグブランド、WEXLEY。自然と冒険を愛する都市生活者をイメージしたTopologie。どちらもバックパックの利用者が激増している日本でいま、高い人気を獲得しているブランドです。吉田さんは言います。
「WEXLEYはちょっとギークなブランドです。ラインアップはメンズが主体。ポケットの数が多く使いやすい、スマートなバックパックを揃えています。コンセプトは『どこでもオフィスになる』。バッグを開けばそこがオフィスになるような、そんな機能を追求しています」
デザイン自体はシンプルでミニマルながら、スキミング防止ポケットなどのセキュリティ機能や耐久性を備え、オフィスカジュアルでもスーツでも合わせやすいため、ビジネスマンからフリーランスのクリエイターまで幅広いターゲットのスタイルにフィットするのがWEXLEYの大きな魅力。通勤以外にも出張などの移動や、カフェなどの外出先での仕事もスマートでありたい、WEXLEYはアクティブに自分らしく仕事をするそんな都市生活者の価値観を象徴するブランドといってもいいでしょう。
一方、Topologieはワーキングユニットが自ら立ち上げた自社ブランド。カラビナやロープなどロッククライミングの道具をモチーフにしたデザインが特徴です。
「ロッククライミングギアにインスパイアされたブランドですが、意外に女性のファンが多いんです。バッグだけではなく、実際にロッククライミングで使用される金具をモチーフにしたバックルとクライミングロープを組み合わせたブレスレットも男女ともに人気がありますね」
ワーキングユニットとShopifyの出会いは7年前。当時総輸入代理店として取り扱っていたデンマークのレインウェアブランド、レイズのサイトを立ち上げたのがきっかけでした。しかし、そのサイトは1年ほどでクローズ。そして、3年ほど前に改めてShopifyを使って、自社が扱うブランドを集めたECセレクトショップ「ユニットストア」をオープンしました。再び、Shopifyを選んだ理由はどこにあったのでしょう。
「香港の本社がShopify一択でした(笑)。弊社は外資系なので、日本では使われていないさまざまなシステムを導入していますが、Shopifyなら外部のサービスとの連携も充実しています。Facebookのカタログをそのままインポートできるのも便利です。そして、前に一度触ったことがあるというのも理由の一つですね。最初にShopifyを使ったときにはすべて英語でしたが、最近はずいぶんと使いやすくなりました。いまはほとんど不満点はないですね」
■楽天に出店を決めたワケ
ECセレクトショップ「ユニットストア」の売上は絶好調。FacebookやInstagram、YouTubeを通してブランドの告知に力を入れた結果、ファン層は着実に広がってきました。
「例えば、WEXLEYだったら防水機能に優れていて、背中に背負っても熱がこもりにくいという機能をクローズアップして情報発信しています。とりわけ反応が良いのがInstagramですね。インフルエンサーマーケティングの効果が高く、確実に売上につながりました」
しかし、3年間、右肩上がりを続けていた「ユニットストア」は今年8月頭にクローズしました。現在は、新たに開設したWEXLEYとTopologieの2つのECサイトに注力しています。
「ブランドの世界観を訴求していくためにも、ブランドごとにECサイトを運営した方がいいと考えました。限りあるリソースの中で、きちんとマーケティングした上で、それぞれのブランドの製品をダイレクトにお客様に売っていく業務に集中するためです」
2つのECサイトを強力にプッシュしているのが、楽天市場店(以下楽天店)です。
2020年4月、Shopifyと楽天はShopifyの管理画面上で楽天市場での店舗運営を可能にするサービスを開始しました。これにより、Shopifyを利用している事業者は、楽天市場販売チャネルを使用することで、楽天市場の商品登録や在庫管理、受注管理の店舗運営業務をShopifyの管理画面上から簡単にできるようになりました。
同社が楽天店をオープンしたのは今年3月。β版を利用してのスタートです。
「もともと、楽天は卸のチャネルという位置づけでしたが、Shopifyとの連携を聞いて、『ありがたい!』と思いました。というのは、弊社が使用している会計や物流のシステムへ、楽天経由での受注情報をつなぐのが難しかったのです。この連携によって、楽天での受注が自動的にShopifyに自動的に取り込みできることになったのは非常にメリットがありました」
吉田さんが楽天とShopifyとの連携を大歓迎したのは、データの統合しやすさだけではありません。従来とは異なる顧客層の開拓も大きなアドバンテージだったといいます。
「日本では楽天を使っているお客様が本当に多いんですよ。楽天店のお客様の80%はブランド名で検索してから店を訪れ、買い物をしています。これまでは、SNSなどでブランドを知り、いったん弊社の直営サイトを訪れても楽天に出店がないとわかると購入をあきらめてしまうお客様も多かったのですが、楽天に店があればそれを防ぐことができます。使い慣れている、ポイントを貯めているなどの理由で、買い物はできるだけ楽天の中でしたいと考えている方のためにも、楽天との連携は非常に効果的でした」
好きなブランドの製品を買えるのならばチャネルはどこでもいい。そう考える消費者ばかりではありません。日本における楽天会員ID数は1億以上。買い物のほとんどを楽天の中で完結させ、「楽天経済圏」の中で生きている消費者にとって、楽天に店のないブランドは対象外。興味があっても買い物の選択肢にはのぼらないのです。
気になる楽天店の売上はどうでしょう。
「最初は、楽天に店を開くと自社サイトとカニバリを起こしてしまうのではないかという懸念が多少ありましたが、蓋を開けてみると、楽天の分がそっくり売上にオンされました。スーパーセールなど、楽天内でのキャンペーン時にも分かりやすく売上が上がります。よく調べているなと感心しますね」
販売チャネルが増えても、自社サイトの売上を奪ってしまうのでは意味がありません。しかし、楽天への出店は違いました。WEXLEY、Topologieともに、新たな顧客層の開拓に成功したのです。
■マルチチャネルを極めたい
楽天と連携をしても、Shopifyの店は注文客のメールアドレスを取得することはできません。しかし、吉田さんは次のように見ています。
「確かにメールアドレス自体は把握できませんが、ご購入いただいたお客様の年齢や性別、住所などはまとまったデータとして取得することができます。今後は楽天の中でのマーケティングを自社ドメインのマーケティングに結びつけていきたいですね」
現在は、Shopifyの自社サイトも楽天店もラインアップはまったく同じ。売れ筋もほぼ変わりませんが、将来的には例えば新商品のローンチを自社サイトで先行販売するといった棲み分けも検討しているそうです。
Amazonへの出店についてもお聞きしました。以前はフルフィルメント by Amazon(FBA)を使っていましたが、現在は自社出荷に切り替えています。
「こちらのチャネルも好調です。現在は、全品ではなく『バッグセレクション』という形で販売していますが、いずれは全品揃えたい。実は、主にヨーロッパの市場ではブランディングの観点からAmazonを避ける傾向もあるという情報があり、香港本社の意向でAmazonでの出品を取り下げ、オンライン販売は自社ECのみに集約する戦略を取った時期がありました。すると売上ががくんと落ちてしまった。そこで、日本市場では楽天市場やAmazonなどのモールは、自分たちで出店・流通を管理している限り決してブランドイメージとしてもネガティブなチャネルではなく、むしろユーザビリティとしても、売上としても非常に大事なのではないかという考えに立ち戻り、今年に入って改めて出店したところ、しっかり数字が戻ってきた(笑)。そういう経験があるので、マルチチャネルには抵抗がありません。私たちのモットーは『売れる場所で売る』こと。マルチチャネルを進め、充実させていきたいと考えています」
吉田さんは、EC業務の合理化や利用者の利便性を上げる仕組みの構築に熱心に取り組んでいます。受注データはiPaaS(Integration Platform as a Service)ツールの「Boomi」やクラウド財務会計システムの「NetSuite」に統合。Shopifyからエクスポートした情報を倉庫に投げて出荷を行い、伝票ナンバーはアプリの「UpTracker」を使って自動化を図っています。今後も業務効率化を推進しながら、マルチチャネル戦略を極めていくに違いありません。
コロナ禍で外出を控える人が増えていますが、WEXLEY、Topologieの人気は依然として好調です。むしろ以前よりもアップしているとか。
「コロナ以降、購入客の年齢層が下がったんです。例えば、WEXLEYはこれまで30代〜50代が中心でしたが、20代も増えてきた。客層の広がりは予想外ですね。若者の方がこの状況を楽しんで消費しているのかもしれません」
若い層ほどリモートワークを前向きに受け止め、オフィス外での仕事環境がより快適になる道具を真剣に選び、その志向にWEXLEYやTopologieが応えている。そんな図式が見て取れます。販売チャネルを広げるワーキングユニットの快進撃はさらに勢いを増しそうです。
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