顧客がストレスを感じずに購入できるかどうかが、EC事業の成功を左右します。購入手続きが複雑だったり、途中で問題が発生すると、せっかくの購入意欲が低下してしまうことがあります。そこで、重要な役割を担うのがECカートシステムです。
ECカートシステムは、ネットショップの訪問客が商品を選び、購入手続きを完了するまでの一連の流れをサポートする、ECサイトに欠かせない機能です。ECカートシステムにはさまざまな種類があるため、事業の規模や技術的な知識、予算に合ったものを選ぶことが重要です。適切なECカートシステムを採用することで、顧客にスムーズなショッピング体験を提供することができます。この記事では、ECカートシステムの基本的な機能や種類、選び方について詳しく説明します。
ECカートシステムとは
ECカートシステムとは、ECサイト上に商品を表示して、ユーザーが商品を選択して決済を完了させるまでの一連の注文処理を行うシステムです。実店舗におけるカートとレジ、さらにPOSシステムの役割をオンライン上で提供するもので、在庫管理や決済処理など、店舗運営に必要な機能が統合されています。
ECカートシステムの基本機能
- 商品保存機能:商品をカートに保存して、後で購入できるようにする機能です。お気に入りリストとしても活用できます。
- 決済機能:保存した商品の購入手続きを行い、決済処理をする機能です。クレジットカード、コンビニ払い、銀行振込、ポイント払い、キャリア決済など、幅広い支払い方法を提供できます。
- 注文情報管理:注文ごとに、注文番号、内容、数量、購入者の氏名、発送先住所などをデータベース化して管理する機能です。
- 顧客情報管理:氏名、住所、電話番号、購入履歴、ポイント残高、クレジットカード情報など、顧客の登録情報を管理する機能です。
- 在庫管理機能:商品の在庫状況を管理し、リアルタイムで在庫切れを表示するなど、運営側に在庫状況を通知する機能です。
- 販売促進サポート機能:ポイントやクーポンの発行、メルマガの送信など、販売促進に役立つ機能です。
ECカートシステムの種類
ECカートシステムには、ASP型、パッケージ型、オープンソース型、スクラッチ型の4種類があります。
ASP型
費用:月額数千円程度(無料プランがあるサービスもある)
ASP(アプリケーション サービス プロバイダ)とは、「インターネット経由で利用する」という意味です。ASP型のECカートシステムは、インターネット上のアプリケーションを使用して、ECサイトを作成できるサービスです。初期費用を抑えることができ、技術的な知識がなくても手軽に導入できる点が魅力です。デザインのテンプレートを複数用意しているサービスもあり、初心者でもECサイトの構築ができるようになっています。
パッケージ型
費用:数十万円〜数百万円
ECサイトに必要な機能がパッケージになったものです。ソフトウェアを購入し、サーバーにインストールして使用します。ゼロから作るスクラッチ型と比較すると割安ですが、導入や運営にかかるコストは高額です。自由度が高く、大規模なECサイトにも対応できる点が魅力ですが、導入と運営には技術的な知識が必要です。
オープンソース型
費用:オープンソースのため0円(ただし、ドメイン取得やサーバーなどの費用は発生する)
無料で提供されているオープンソースのカートシステムを活用して、自社でカスタマイズする方式です。柔軟性が高いのが特徴ですが、技術的な知識が必要で、トラブル対応なども自社の責任となるので注意が必要です。
スクラッチ型
費用:自社でゼロから開発するため、数百万〜数千万と高額になる場合が多い
完全オーダーメイドで開発するカートシステムです。独自機能を持たせたい場合に最適ですが、開発費用が高額になるため、ビジネスの規模が大きい場合や、特別な要件がある場合に採用される方式です。
ECカートシステムの選び方
事業規模に合ったシステムか?
ECカートシステムは、ビジネスの規模に応じて最適なものを選ぶことが重要です。たとえば、小規模なビジネスの場合は、導入が簡単でコストも低いASP型が適しています。商品数が多く規模が大きい場合や、自社にあわせたシステムを構築したい場合は、パッケージ型やスクラッチ型も選択肢のひとつです。
事業成長に合わせた拡張性があるか?
ビジネスが成長し、商品が増えるにしたがって、より多くの機能が必要になることが考えられます。長期的な視点で見て、事業規模が拡大した際にも柔軟に対応できるようなシステムを選ぶことが重要です。
たとえば、最初は小規模な事業であっても、将来的に多言語対応や多通貨対応が必要になったり、国際展開を視野に入れたEC運営が求められることがあります。機能を拡大するたびにサイトを「工事中」にしていては、事業そのものが中断してしまいます。成長に対応できるシステムを選びましょう。
カスタマイズが可能か?
ECカートシステムは、基本機能だけのものから、独自の要件に応じたカスタマイズが可能なものまでさまざまです。独自の販売プロセスやデザインを取り入れたい場合は、カスタマイズが可能なシステムを選びましょう。ただし、パッケージ型やオープンソース型は時間や技術的なノウハウが必要になるので、自社のリソースをよく確認しましょう。
自社の技術力や運用リソースは十分か?
自社の技術力や運用リソースも、ECカートシステムを選ぶときの大きなポイントです。
たとえば、ウェブ開発のスキルがない場合は、技術的なサポートが充実したASP型やパッケージ型がおすすめです。一方で、カートシステムの開発や管理ができる人材が確保できている場合は、オープンソース型やスクラッチ型で自由度の高い運用が可能です。
予算に合っているか?
初期費用や運営にかかるコストも、忘れてはいけない重要な要素です。ASP型は最も安価で、手軽に始めることができます。知識がなくても簡単に運営できるので、技術者を別途雇用する必要がありません。
オープンソース型は無料ですが、技術力のある人材が必要です。パッケージ型やスクラッチ型は初期費用が高額になる傾向がありますが、長期的なカスタマイズ性や拡張性を考えると、コストパフォーマンスが高くなる場合もあるので、検討に入れましょう。
販売チャネル戦略に適しているか?
近年では、多くの消費者がオンラインショップやSNS、実店舗など、さまざまなチャネルで商品を購入しています。ECカートシステムを選ぶ際も、自社の販売チャネル戦略に適したものを選ぶようにしましょう。
たとえば、ECサイトと実店舗の在庫や販売データを一元管理できるシステムや、自社ブログやサイト、Instagram(インスタグラム)やFacebook(フェイスブック)といったSNSと連携できる機能もあると、マルチチャネルで販売機会を増やすことができます。
オムニチャネル戦略に強いカートシステムは、オンラインとオフラインの連携が可能です。実店舗のPOSデータとオンラインの販売情報を統合管理することで、一貫した購入体験を提供し、ブランドへの信頼感を高めることができます。
セキュリティ対策が十分か?
ネットショッピングでは個人情報の入力が必要になるため、セキュリティがしっかりしているかどうかも重要なポイントです。顧客の個人情報や決済データを扱うにあたって、ECカートシステムで十分な対策ができるかどうかを確認しましょう。
まず、SSL証明書対応のサービスであることは必須です。SSLは、顧客のデータを暗号化して保護する技術で、ウェブサイト全体の安全性を確保します。クレジットカード決済を導入する場合は、PCI DSS準拠のシステムを選びましょう。PCI DSSは、クレジットカード情報を安全に扱うための国際的なセキュリティ基準であり、これに準拠していないシステムは顧客データを保護できないリスクがあります。また、二段階認証が導入できるかどうかも考慮しましょう。より安全なサイト運営が可能になります。
おすすめのECカートシステム5選
1. Shopify
Shopify(ショッピファイ)は、世界中で広く利用されているECカートシステムで、使いやすさと機能の豊富さが評価されています。インターフェースが直感的で、初心者でも簡単に操作できるので、テンプレートやアプリを使えば、コードの知識がなくてもプロフェッショナルなオンラインストアを構築できます。さらに、世界各国への販売が可能で、多言語対応や多通貨対応が充実しているため、越境ECを考えているビジネスにも最適です。
Shopifyの大きな強みのひとつは、オムニチャネル戦略への対応です。実店舗がある場合は、Shopify POSを導入することで、オンラインとオフラインの両方で在庫を一元管理することが可能になります。また、実店舗での購入履歴をオンラインストアで活用するなど、顧客にシームレスなショッピング体験を提供できます。
また、Shopifyの購入ボタンを自社サイトやブログに埋め込むことが可能です。すでにブログなどを運営している場合は、Shopifyの購入ボタンを埋め込むだけで、新たなサイト構築を行うことなく、既存のサイトにカート機能を設置することが可能です。
決済システムとしてShop Payを利用した場合、クレジットカード情報を保存しておくことで、次回以降の購入手続きがワンクリックで完了するため、コンバージョン率の向上が期待できます。購入手続きが非常にスムーズになるため、リピーターの獲得と顧客維持にもつながります。
2. BASE
BASE(ベイス)は、日本国内の小規模事業者や個人事業主向けのASP型のECカートシステムです。無料でスタートできる点が最大の魅力で、専門知識がなくても簡単に操作できる直感的な管理画面が用意されています。
クレジットカード決済、コンビニ払い、銀行振込など、日本市場に特化した決済手段に対応しています。販売促進のためのクーポンやメルマガ機能が標準装備されており、リピーターを獲得するためのツールも充実しています。デザインの自由度はやや低いものの、必要最低限の機能を持つショップを簡単に作成することが可能です。
3. EC-ORANGE
EC-ORANGE(イーシーオレンジ)は、大規模なECサイト構築や企業向けに柔軟なカスタマイズが可能なパッケージ型のECカートシステムです。日本国内での利用に特化しており、多言語対応や多通貨対応、BtoBサイトの構築なども可能な点が大きな魅力です。また、国内の商習慣に合わせた機能が充実しているため、企業の要件に合わせた独自のECサイトを構築できます。
4. EC-CUBE
EC-CUBE(イーシーキューブ)は、自由度の高いオープンソース型のカートシステムです。自社独自のデザインや機能を持ちたい場合には、EC-CUBEのカスタマイズ性が大きなメリットとなります。無料で利用できる点も魅力であり、プログラミングスキルがあるチームにとっては、選択肢のひとつになるでしょう。
EC-CUBEは、日本発のオープンソースシステムであるため、国内向けの豊富なプラグインやサポートが充実しています。特定の業種やビジネスモデルに合わせてカスタマイズしたい場合に、EC-CUBEの柔軟性が役立ちます。EC-CUBEコミュニティも活発で、困ったときのサポートを受けやすい環境が整っています。
5. WooCommerce
WooCommerce(ウーコマース)は、WordPress(ワードプレス)と組み合わせて使用するプラグインであり、オープンソース型のカートシステムです。すでにWordPressを利用しているサイトでカートシステムを導入する場合に便利です。無料で始められるだけでなく、WordPressの豊富なプラグインやテーマを活用して、機能やデザインを自由に拡張することができます。
SEOに強い点も特徴的で、商品ページやカテゴリページの最適化を簡単に行うことができます。特にブログと連動させたコンテンツマーケティングが得意な事業者には、WooCommerceの柔軟性が強みになるでしょう。幅広い決済方法や配送オプションにも対応しています。
まとめ
ECサイトにおいて、ユーザーがスムーズに商品を選んで、購入できる環境を整えるには、ECカートシステムが欠かせません。ビジネスの規模や予算に合わせて、最適なECカートシステムを選ぶことが重要です。
初めてECショップを始める方には、手軽でコストを抑えられるASP型がおすすめです。ASP型は技術的な知識がなくても簡単に導入でき、最低限必要な機能が揃っているので、迅速にショップを立ち上げることができます。柔軟なカスタマイズが必要な場合には、オープンソース型やパッケージ型も選択肢のひとつです。それぞれの特徴を理解して、あなたのビジネスにあったシステムを選択して、快適なショッピング体験を提供しましょう。
よくある質問
ECカートシステムはすぐに導入できる?
ASP型のECカートシステムであれば、登録後すぐに利用可能です。技術的な知識が不要で、初心者でも手軽にスタートできます。オープンソース型やパッケージ型の場合は、システムのインストールや設定が必要になるので、導入までに時間がかかり、技術的な知識も必要になります。
ECカートシステムをカスタマイズするには?
ECカートシステムをカスタマイズしたい場合は、オープンソース型やパッケージ型が最適です。特にオープンソース型は、自由にカスタマイズできるため、自社独自の機能やデザインを追加できます。ただし、技術的な知識が必要となります。
ECカートシステムはどれくらいの費用がかかりますか?
ASP型であれば、比較的低コストで始めることができます。Shopifyなど、無料プランが用意されているサービスも多いので、まずはお試しで始めてみるのもおすすめです。
オープンソース型は基本的に無料で提供されていますが、カスタマイズや運営には別途コストがかかります。パッケージ型やスクラッチ型は、拡張性が高く、カスタマイズも自由にできますが、初期費用が高額になる傾向があります。
オムニチャネル対応のECカートシステムはある?
ShopifyなどのECカートシステムは、オムニチャネルに対応しています。オンラインとオフラインの在庫管理を一元化して、シームレスなショッピング体験を提供できます。
文:Taeko Adachi